62 トイレ 洗面台に鏡の前
いくつもの鏡が規則正しく並んでいる。
そのうちのひとつの鏡に映る、石鹸の泡だらけの顔。
芙蓉が鏡に向かってT字剃刀で顔の毛を剃っている。
その足元の床のタイルの上には、玉緒が座り込んでいる。
玉緒:目も鼻も口もあるだけで充分なのに、どうしてその形に人は一喜一憂するんだろ。
いっそ顔なんてなければ、そのほうが幸せなんじゃなかろうか。
芙蓉:どうやってなくすんだよ。
玉緒:全人類、マスクをして暮らす。
芙蓉:阿呆か。
玉緒:世界中の空気をウィルスで汚染して、マスクなしじゃ外に出られないようにすればいいんだよ。
芙蓉、足を洗面台の上に載せ、すねにシェービングクリームを塗り始める。
芙蓉:顔がなかったらどうやって他者を認識するんだ。
玉緒:声とか?
芙蓉:そしたら今度は綺麗な声とか醜い声とか気にし始めるよ。活舌のいい人がもてるとか、高い声の人は就職に不利とかね。ただ美の基準が顔以外のものに変わるだけだろ。
玉緒:……
芙蓉:美しいものを尊ぶのが心だ。心があるから美しいものを愛でたいと思うんだよ。
玉緒:愛するの愛でたいと、お祝いの目出度いの語源は一緒?
芙蓉:知らん。
玉緒:脱毛するの?
芙蓉:うん。
玉緒:全身?
芙蓉:今の最新は冷却法なんだ。氷河期のマンモスみたいに毛根を絶滅させる。
玉緒:積極的必要じゃなくでも、あってもいいものってあるよ。
芙蓉:実感のない言葉には説得力がないな。
玉緒:似合うのに。髭。
芙蓉:うるせえ。お前の意見なんか知るか。
と、木蓮か入ってくる。
玉緒と芙蓉の方を見もせずに、トイレの個室へと入る。
がちゃりと鍵が閉められる。
芙蓉、鏡越しに木蓮のいる個室の扉を見る。
個室の表示は壊れていて、『vacant』のままだ。
トイレからは、芙蓉のすすり泣きが漏れて聞こえてくる。(原文就是芙蓉不是木蓮,应该是作者手误)
男の声:彼はそうしてピアノ教室の前にバイクを止めて、彼女のレッスンが終わるのを待つようになりました。
バイクの音が聞こえる。
62 卫生间 洗手池的镜子前
几面镜子整齐的摆在一起。
一张满是肥皂泡的脸出现在其中一面镜子中。
芙蓉对着镜子用T字剃刀剃着脸上的毛。
在她脚下的地板砖上,玉绪席地而坐。
玉緒:为什么有了眼睛、鼻子和嘴巴还不够,人们对自己这张脸还有人欢喜有人愁啊。要是谁失去了脸,反而会更幸福吧。
芙蓉:怎样才会失去啊。
玉緒:所有人都戴着口罩生活。
芙蓉:别犯傻了。
玉緒:要是世界上的空气都被病毒污染、所有人都只能带着口罩外出就好了。
芙蓉把腿伸到洗手池上,开始往小腿上涂剃毛膏。
芙蓉:没了脸怎么认出谁是谁啊。
玉緒:通过声音?
芙蓉:那大家就都会开始想自己的声音是“漂亮的”还是“丑陋的”了。油嘴滑舌的人就会受欢迎,声音尖利的人连工作也不好找。只不过是美的标准不是脸了而已。
玉緒:……
芙蓉:喜爱美丽的事物是人们的本性。我觉得只要这个本性在,人们就一定会赏玩美人美物。
玉緒:表示喜爱的“赏玩”和表示祝贺的“可喜可贺“(日语音同),词源是一样的吧?
芙蓉:谁知道呢。
玉緒:你在脱毛吗?
芙蓉:嗯。
玉緒:全身?
芙蓉:现在的最新技术是冷却脱毛法。就像到了冰河时期的猛犸象那样从根部除掉毛发。
玉緒:有些东西虽然没有什么大的用处,但是就那样放着不管它就挺好的。
芙蓉:不具体的话可没什么说服力啊。
玉緒:和那个挺像的。胡须。
芙蓉:烦死了。我问你的意见了吗?
这时,木莲走了进来。
木蓮看都没看玉緒和芙蓉,径直走进了厕所的小隔间。
传来关锁的声音。
芙蓉透过镜子看着木蓮那个小隔间的门。
小隔间的显示器坏了,一直是『vacant』没有变。
从门缝里传来木蓮的抽泣声。
男人的声音:就这样他骑着摩托车停在了钢琴教室前,等着她下课。
传来了摩托车的声音。
63 ピアノ教室の前
ピアノ教室の前に止まっている大型バイク。
そこに腰かけている青年、ヘルメットを外す。現れたのはとても整った顔。そしてなにより、彼の脚はすらりと長い。
男:なるほど……
男の声:なるほど、彼女が彼を好きになるのも仕方がないと思いました。
63 钢琴教室前
钢琴教室前停着一辆大型摩托车。
骑在上面的少年摘下了头盔,露出一张非常俊秀的脸。而且他的腿格外修长。
男:原来如此……
男人的声音:原来如此,难怪她会喜欢上他。
先生の教えをお願い致します。
靡不有初,鲜克有终……